光線銃を持つ宇宙人がピラミッドの上に立つ…?
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クエルナバカからメキシコシティに戻り、前回のソチカルコと同じトルテカが築いたとされるトゥーラ遺跡に出かけました。
この遺跡の最大の特徴は、ピラミッド神殿の上に立つ巨大な石像です。トルテカの戦士を象っているとされますが、その謎めいたいで立ちのせいで、生命維持装置を付け、光線銃を持つ宇宙人という説もあり、なかなか面白いのです。
場所は、イダルゴ州のトゥーラという街の近くで、メキシコシティからバスで1時間半ほどです。トゥーラ行の1等バスはシティの北ターミナルから出ています。行きのバスは1等より上のクラスで、車内も綺麗ですし、イヤホンで映画か音楽を選択できるようになっていました。値段も1等より少し高い程度です。
映画1本見終わる頃、トゥーラのターミナルに到着しました。遺跡はトゥーラの町の背後の丘の上にあり、私が初めてここに来た30年前は20分程度で登って行けました。ところが、現在は遺跡公園の整備が進み、出入り口が街とは反対側に位置する博物館の所に制限されてしまいました。20年前、そこからバスターミナルまで歩いたことがありますが、1時間近くかかったと思います。
路線バスで行こうと思いましたが、探すのが面倒なのでタクシーで向かいました。料金は30ペソ(270円くらい)ですから安いです。
遺跡の入り口で入場料52ペソを払い、まず、隣接の博物館に入ります。博物館の展示は、以前は充実していると思ったのですが、ソチカルコ遺跡の新しい博物館を見た後では、みすぼらしさを感じます。もっとも、30年前は、トタン屋根の掘立小屋しかなく、そこに発掘物を押し込んでいたのです。
出入り口から遺跡に入ると、細い歩道がサボテンの荒野に延々と続いています。入り口から最初の建造物までかなり遠く、炎天下の砂漠に灌木とサボテンが密集して生えている状態です。景色はいのですが、直射日光の下を歩くため、見学する前から疲れてしまいました。
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トゥーラ遺跡の入り口。博物館が右側にある。
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遺跡内の通路に生えている実をつけたウチワサボテン。鳥や虫が食べにくる。
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壁面にジャガーや鷲のレリーフがはめ込まれた壮麗な神殿
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トゥーラ遺跡は、メインのピラミッドBが最大の見どころです。トゥーラが栄えた西暦900年ころに建設されたもので、ピラミッドの全ての壁面にジャガーや鷲のレリーフがはめ込まれ、赤を基調とした鮮やかな色に塗られていたという、壮麗な神殿だったようです。
ピラミッドの上には大きな人型の石像が4つ立っています。これは着飾った戦士のデザインで、用途は神殿の屋根を支えていた柱だったそうです。デフォルメによって宇宙人のような雰囲気になっているのが面白いです。こうした巨大な石柱はメキシコ・中米地域では他にあまり例がないので、貴重だと思います。
トゥーラ(ナワトル語ではトラン)という言葉は都市を意味するのですが、ここはトラン・シココティトラン(Tollan-Xicocotitlan)と呼ばれ、トルテカの首都だったと伝承されています。ちなみに、シココティトランとは、「コガネムシの場所の近く」とか「シココ(トルテカの首都の近くにあった丘)の近く」というような意味だそうです。
メキシコ中央高原の巨大勢力だったテオティワカンが衰退した西暦700年ころから、この地に移動してきた人々によってトゥーラ中心部の最初の都市化が始まり、1000年にかけて最盛期が訪れます。この時の人口は最大で5万5000人程度と推測されています。12世紀になると、都市の衰退が始まり、中心部の主要な建物が焼かれてしまいます。しかし、都市は滅亡することなく、14世紀半ばにはメシーカ(アステカ)に占領されました。
ピラミッドB以外の見所としては、ピラミッドCや球戯場、衰退期に焼かれた宮殿などがあります。また、ソチカルコ同様、ここも外敵の侵入をいち早く発見することができる山の上に作られており、ピラミッドの上から周辺地域を遠くまで見渡すことができる眺望の良さも見所でしょう。
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トゥーラ遺跡の案内図。Mのマークが博物館と出入り口。
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ピラミッドBの全景。神殿の前に列柱が並ぶ形は、同時代にユカタン半島で栄えたチチェン・イッツアの戦士の神殿とよく似ている。このため、両者に交流があり、トゥーラの影響がチチェンイッツアに及んだとする説がある。
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ピラミッドBの壁面にはめ込まれたレリーフ。
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ピラミッドBの上から見た列柱とピラミッドC。
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ピラミッドBの上にある戦士の像。ここからの見晴らしが非常にいい。
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光線銃を持つ宇宙人というのはどうか…?。
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見学ルートにない小神殿を見に行く
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遺跡の中心部の見学を終え、遺跡地図に示されていた少し離れた場所の建造物を見たいと思いました。しかし、そこまでは結構距離がありそうで、観光ルートではないので行く道も分かりません。そこで近くにいた制服のおじさんに聞くと、「一人でそこへ行くのは、非常に危険だ。おれが連れて行ってやる」と言うのです。
私は、どうしてもそこに行きたいわけではなく、危険ならやめてもよかったのです。しかし、おじさんは人っ子一人いない炎天下の道をどんどん歩いて行きます。周囲には背丈ほどの灌木やサボテンの林が続き、離れた場所からは私たちの姿は見えないはずです。おじさんは年季の入った連射式のカービン銃を持っており、それが不気味に揺れます。
林の中の道をいつまでも歩き続けるおじさんに、私は恐くなりました。途中で「もう帰る」と言おうとしましたが、すでに、どこを探しても誰もいない林の中です。下手なことを言っておじさんを怒らせても困るため、覚悟を決めて歩くしかありませんでした。
ずいぶん長い間歩いたようですが、30分程度で灌木の茂みに囲まれて小さな建造物がポツンとある場所に着きました。おじさんは、誇らしそうに「これだ。写真を撮れ」と言います。一部が円形になった面白い祭壇ですが、それほど興味がわくものではありません。何枚か写真を撮ると「もう帰りましょう」とおじさんを促しました。
すると、おじさんは「近道を通って帰ろう」と言います。それはイバラやサボテンをかき分けて作られた獣道のような曲がりくねった細い道でした。そこを、おじさんが早足で歩き、私は必死で後を追います。近道というのに、私には遠回りに思えてなりません。20分ほどで、やっと元の道に戻りホッとしました。
博物館に着き、私はおじさんにビール代程度のチップを渡しました。嬉しそうな笑顔を作ったおじさんを見て、私は「何事もなくてよかった」と胸をなでおろしたのでした。
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ライフルを持ったおじさんは、迷いなくどんどん歩く。
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中央部が半円形になった珍しい神殿?の跡。
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